駆け込み乗車の極みは盗塁王

駆け込み乗車は危険です!
という車内アナウンスは、日本に限ったことではない。
アメリカの他の街がどうかは知らないが、
ニューヨークでも注意喚起されている。
でも、駆け込み乗車がどの程度危ないものなのかを
自分は知っているようで知らなかったに違いない。
せいぜい想像しても、ドアに挟まれれそうになる人、
かばんが挟まれたまま発車しそうになったりする程度かと思っていた。

ワタシを乗せた7トレインは、
グランド・セントラルを出ようとしていた。
両側の乗降車口に挟まれるように据えられた手すりを軽く握り、
発車時の揺れを受け止める体制はばっちりだった。
しかし、予想外の展開というのは、
万全と過信している隙をつくものと言わんばかりに起こる。
閉まろうとするドア目掛けて転げながらレギンス姿の中年女性
(かどうかも正直分からない、
ひょっとしたら実際は若いのかもしれないラティーナ)
が目の前に突っ込んできた。
ワタシの左腰は、まるで野球の3塁ベースに
彼女に突っ込まれ、
そして爆走の彼女は3塁にタッチした直後に床に倒れ込んでいた。
その後、扉は何もなかったように閉まり、
彼女は暫く起き上がらぬまま、息をぜーぜーさせていた。
“are you ok???”
突っ込まれたワタシは自分の腰も心配せずに声をかける。
ごく近い座席に座っていた男性が、わざわざ立って歩み寄り手を差し伸べる。
彼女は起き上がる。
でも、謝りもしなければ、感謝もしない。
笑みもない。
“why don’t you have a seat?”
と、空いている席へ誘導してしまう自分も自分だ。
次の駅に着く頃には
彼女は足を広げ、荷物も脇に退け携帯に熱中していた。
おそらく、ゲームをしていたのかもしれない。

自分は怪我をしなかったし、
彼女も怪我をしていなかった。
よかったじゃないか!
と、素直に思えない、この3塁ベースのワタシには
モヤっとするものだけが残り、
彼女には盗塁王の称号が与えられたって話だ。

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